●相田一人(相田みつお美術館館長)
陰影礼讃
美術館の私の部屋に、数年前武田仁さんから頂いた奈良興福寺の不空羂索観音像が飾ってあります。ご存じのように氏の描く仏画は、どれも極細の、それも最小限の線だけで描かれています。ですから、一見平面的な印象があります。私も最初はそうでした。ところが、毎日見ているうちに、しだいに線と線との交差に陰影を感じるようになって来たのです。 思えば不思議なことです。もしかしたらこの陰影は、氏が意識して描こうとしたものではなく、最初からそこにあったものなのかもしれません。
捨てる どうでもいいものから 捨ててゆくんだね
父相田みつをの作品の一つです。逆説的な言い方ですが、色彩や面による構成という絵画の要素を一つ一つ捨てていくことで、氏は陰影というものを見つけたのではないでしょうか。 武田さんの仏画が静かに多くの人を引き付けているのは、余計なものを捨て果てた後の陰影というものに、人は心の安らぎを感じるからではないか、私はそんなふうに考えているのです。
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